シスター増田講話会報告

2012-11-18

JASHスタディグループ講話会の報告

「神祭りと信仰心」 講師:シスター増田早苗(宮代会8回生)

9月25日、第2グループの企画で行われた講話会には、定例日以外の開催にもかかわらず、大勢のスタディグループのメンバーが集まりました。ま たシスターのクラスメートやJASHウェブサイトからお申し込みの会員にもご参加頂きました。日本の神話や昔話に造詣の深いシスターのお話は、息をつく間 もないほど興味深く、時間が経つのを忘れる90分でした。その後シスターとご一緒に昼食を頂き、質問や雑談をして和やかに過ごしました。

―講話の内容―

1.Listening with One Heart
ご講話は、「人はだれでも無意識に心を満たすもの(神つまり無限の愛)を求めている」とアウグスチヌスの『告白録』の一節を参考に始められました。すべての人が心の底にこの神を求める心を持つことを前提にするのが、異文化・他宗教との交流に大切であると。

2.日本の文化のなかの神祭り・祀り
A 正月(旧暦では2月4日、現在の立春)
門松(神のくだる木、松 竹 梅)・雑煮・屠蘇(ホフル ヨミガエル)・
直会(ナオラエ、両側が細い箸を使うのは、神と共に食事をすることを意味する)

B お盆
ナスやキュウリに先祖の霊が乗ってくる→死後の世界、復活を信じている。
盆踊り(帰ってきた先祖に喜び、ともに踊る)

C 毎日の生活
いただきます・ごちそうさま(誰に手を合わすのか→大いなる存在に)
みやげ=宮+け(神と食事をして残したものを家に持ち帰る)

D 昔話
子供向けではなく大人に向けた見えない宗教。日々の生活から自然発生した民間信仰。
例:寛大な心を持つ大国主命をたたえる「因幡の白兎」

3.他文化との共通性
季節との関連もあるが、生活の中の文化は共通性が多い。(『生活のなかの宗教』宮家 準 著)


復活祭(立春後の満月のあとの日曜日で人の命に終わりが無い死後世界への信仰)・・・お盆
復活祭のろうそく(司祭が火打ち石でおこして火をつける)・・・おけら火(京都)
クリスマス(太陽がよみがえる冬至祭で1年の始め)・・・正月
クリスマスツリー(ケルト、ドルイド教の巨木・巨石崇拝。May Pole)・・・門松
御聖体拝領(神とともに食す)・・・直会
旧約聖書(ユダヤ教に見られる民間信仰の物語)・・・神話・昔話

4.日本文化の独自性
キリスト教は神が人に命令し、人が動物を支配し、男性の下に女性が存在する序列世界だが、日本の昔話や神話では人間と動物と神が同じ世界に共存する。(因幡の白兎)
古事記・日本書紀の神話はギリシャ神話と同じように為政者が利用した神統図だったが、記紀成立以前に書かれた日本最古の浦島伝説で乙姫様は女神信仰である。

神が秘する自然の色に感動する小堀四郎・ものの中に神の神秘を見る岸田劉生・「神は蜂のなかに」と詩で詠う金子みすゞ・太陽に手を合わす習慣・・・汎在神 論(体験から知った、全てを包み込む根源的生命力ともいうべき「なにもの」かに憧憬の念を抱く)が日本文化のもののとらえ方。
一方ギリシャ・ローマは汎神論で、主客分離、対立を前提に理性を使い言語と概念によって主体が客体を知ろうとすることに重点を置く。
井上洋治神父は滞欧中この二者のはざまで苦悩する。・・・『遠藤周作と井上洋治―魂の故郷へと帰る旅』山根道公

5.聖心女子学院の教育
聖心の教育は
1.イエスの教えを伝えていくこと
2.キリスト教の祭事を大切にすること
3.毎日のいろいろな場面で祈り、いつでもどこでも神とのつながりを持つこと。
宗教心は授業だけではなく毎日の生活のなかで培われていく。
神の愛の体験を人々に伝えたいという聖心のスピリットは聖マグダレナソフィアの時代から変わらず、それは生徒の生い立ちや在学年数に違いがあっても必ず根付いて行く。

日本のキリスト教は民間信仰の土壌の上に着地した。
キリスト教は理論的で言語化されていて、学校教育の中で教え易い。が民俗信仰は心情的で新しいものが入ってくると埋もれてしまう。

6.キリスト教の光と影
キリスト教は人間として平等だが、宗教として平等ではない。このような考えでは異文化との対話が出来ない。
聖心会には現在55歳以下のシスターが10人ほどになったが、聖心のスピリットは卒業生一人ひとりの心のなかに育っている。

―最後に―

「神は私も皆さんも愛しておられるのだからその愛に支えられて生きましょう。その喜びを分かち合いながら。」とシスターは締めくくられました。
この日のご講話は、第2グループだけでなく各グル―プにも沢山のヒントを与えてくださいました。3月の中間発表の準備に向けて、たいへん意義深い一日でした。

参考
『生活のなかの宗教』 宮家 準
『浦島伝説に見る古代日本人の信仰』 増田早苗
『小堀四郎と鴎外の娘たち』 「小堀四郎と鴎外の娘」展小冊子
『蜂と神さま』 金子みすゞ
『遠藤周作と井上洋治―魂の故郷へと帰る旅』山根道公 三田文学2007年春季号

委員長 山岡靖子 記
協力:松田勢津子(第2グループ書記)

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シスター増田早苗
1958年聖心女子大学英文科を卒業後、同大学院を修了。
サンフランシスコ大学神学部にて修士課程を終了。
その後シカゴ・ロヨラ大学で霊性神学と心理学、ボストン・ユング研究所で深層心理学を研修されました。ロヨラ大学で自国の文化を学ぶことの重要性を知り、 「私達の祖先がどのような信仰心を持ち、何を信じて生きてきたのか」に興味を持ち、日本の神話や昔話の研究を続けてこられました。
ご著書には『日本昔話の霊性』、『日本神話と聖書とこころのかけ橋』、『浦島伝説に見る古代日本人の信仰』、 The Spirituality of Japanese Folktales、そして近日出版予定の『聖母マリアの系譜』があります。